2015/06/29

第83冊 人の死なない沙村マンガ、うなれ沙村節 『波よ聞いてくれ』

25歳のカレー屋店員が、飲み屋で失恋話を
ぶちまけたことをキッカケに、ラジオMCとしての
人生を歩む……のか?(笑)


波よ聞いてくれ(1): 沙村 広明: 本

とにかく主人公のセリフの切れ味が素晴らしい。


ここで書くのも野暮だけど、第一話で初めてマイクの前に
立つ主人公ミナレの暴走っぷりが心地よい。



まあ、ここで第一話読めるんで、騙されたと思って
読んでみてください。
http://www.moae.jp/comic/namiyokiitekure/1



あと、本編で大笑いした後は、カバーを外して再度大笑いすべし、です。

第82冊 石高はヴァーチャル? 『武士の家計簿』

ベストセラーは逆に手にとりづらい難儀な性格なんですが、
これ、もっと早くに読んでおけばよかったと思うくらいに
面白いです。


武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書): 磯田 道史


学者でなかったら週刊誌の記者になりたかったと
いうくらいに詮索好きな著者ならではの視点で、
綿密につけられた家計簿、猪山家文書をもとに
当時の世相を読み解く、という切り口が新鮮。


家計簿それ自体ではただの文字の羅列だが、そこを
読み解いていく磯田先生の粘着質(褒め言葉です)な
姿勢にはただただ敬服。


石高はヴァーチャルなもの


本書ではじめて知ったのは、徳川時代の武士は、「石高」と
いっても大部分はおのれの知行地を見ることなく死んでいった、
つまり実際の領民と年貢の管理運用は、幕藩体制の全国統治の
しくみに組み込まれて回されていた、ということ。


まあ、現代で言う、大家業(建物のメンテナンス&家賃の管理など)を
管理会社が請け負い、オーナーはそのあがりをもらう、という仕組みに
近い感じと理解していますが、つまり、武士にとって石高は自分の領地で
領民がリアルに収穫したもの……というよりは、数字として表れてくる
ヴァーチャルなものだった、ということです。


地縁がきわめて薄い状態だったわけで、年貢による「不労所得」を
武士が奪われることになる明治維新という劇的な体制変更、改革に
移行するにあたって、それがいかに有利だったか、という視点は実に
面白いところです。


身分相応のコスト

武士の身分にあるだけで、家禄が与えられるのに、
「武士はくわねど高楊枝」なんていうことわざが
生まれるくらいに困窮してしまうのは、なぜ……?
という疑問にも、その身分でいることにコストがかかるのだ、
という切り口で磯田先生と猪山家文書はスッキリ説明してくれます。


武士と言うものは、とにかくその身分であることに対して
コストがかかった、ということです。年中行事に親戚などとの
付き合い、賓客のもてなし、神社への寄進などなど。


経済的に困窮し、武士の魂とよく言われる刀を売り払っている
ような状況であっても、寄進はチャンとおこなっているあたり、
現代のわれわれの感覚からすると何とも不思議なほどです。


歴史とは過去と現在のキャッチボールである

……という言葉は著者があとがきで紹介している言葉ですが、
家計簿というごくプライベートな文書から、傍証や先行研究を縦横に
駆使しながら江戸期~明治期の姿を描いてみせたワザは、
とにかく凄い。


売れた本への食わず嫌いで読まないのは勿体ないほどです。
ぜひご一読を。

第80冊&81冊 「場」をつくるための2冊 『人が集まる「つなぎ場」のつくり方』&『フルサトをつくる』

自分でも治療院というカタチで「場」を作るのに
関わったから、尚更そう思うのかもしれないですが、
その「場」がなければ生まれない出会いがあったり、
その「場」があるから出来ること、というものが、確実に
あります。


ノマド化もよいですが、オフィスに人が集まって仕事する
ことにも、ただ直接話せてコミュニケーションが取りやすいから、
ということ以上の何かがあります。


ノマドがブームになった後に、シェアオフィスやレンタルオフィスなど
が巷に増えはじめ、ノマドとオフィスワークの「いいとこどり」を
しようという流れが生まれたのはその証左でしょう。


さて、話が逸れましたが。


今日ご紹介する二冊は、「場」をいかにして作るか、ということを
かなり違う角度、目的で論じた本。


人が集まる「つなぎ場」のつくり方 -都市型茶室「6次元」の発想とは ナカムラクニオ


一冊目は、知る人ぞ知るカフェ(というにはあまりにも
色々なことが起きる場所ですが)「6次元」のオーナーの本。


人と人の出会う場所を、どうやって作っていくのか、という
哲学と、実際に開店してからの紆余曲折、カフェで行ったイベントの
記録や、「6次元」ファンの著名人のコメントなどなど盛りだくさんで、
こういう考え方もありか、と目からウロコです。


著名人がいっぱい来るのは、筆者が元放送業界の人だからでは
ないか、という批判もアマゾンのレビューなんかにはありますが、
まあ、それはそれです。


「○○ナイト」と称して、普通スポットが当たりづらい活躍をしている
人を招いて語り合える場にする、など、趣味や興味を軸にした
コミュニティづくりのためにヒントになりそうなアイデアが、かなり
みっちり詰まっています。


飲食業をこなせるマメさが自分にあれば、ちょっとやってみたいな、と
店作りしたくなってみるような本です。


 
フルサトをつくる: 帰れば食うに困らない場所を持つ暮らし方 伊藤 洋志, pha


で、まただいぶ切り口の違う本。
こちら、サブタイトルがほぼすべてを表わしておりますが(笑)。


地方に、低予算で、しかもそこに行けばとりあえず衣食住は
確保できるようなセカンドハウスを持つというコンセプト。


伊藤さんの前著である『ナリワイをつくる』と合わせて読むことで、
仕事と生活圏という、人生を大幅に左右する要素を自分でコントロール
していくライフスタイルが浮かび上がってきます。


共著のphaさんも『ニートの歩き方』で有名ですが、この本と合わせて読むと、
働かない生き方が具体性を持ってあらわれてきます。


生活する、働く、ってことの意味とかにモヤモヤしている方には、
生き方そのものを問い直すキッカケになるような本だと思います。


ぜひお楽しみあれ。

⇒参考:第29~32冊 働くってどんなことか考え直す
『シャドウ・ワーク』『ナリワイをつくる』ほか2冊