2018/06/29

第92冊 映像テクノロジーを使う者は映像テクノロジーの一部と化す? 『科学者の網膜:身体をめぐる映像技術論:1880-1910』


科学者の網膜: 身体をめぐる映像技術論:1880-1910 (視覚文化叢書)


おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ。


ミステリーを読むかのように、映像技術に我々の在り様までもが絡め取られていることをジワジワと明らかにしてくれる、知的興奮の書。
 
 
映像技術と身体との関わりを、 19世紀末から20世紀初頭のパリ、主に五人の科学者に着目しながら検証していく流れの中で、身体の外形・状態を「記録」する対象として人間を扱っていく視点、世界観が、いつしか観察される対象にとっても無意識のうちに自明となり、人々の身ぶりを変えていく、という構造には、ゾクリとした恐怖も覚える。


本文中、しばしば現代の映像技術についての言及もあり、現代に生きる我々の身ぶりもまた、映像技術に暗黙のうちに影響支配されていることが納得できてくるあたりが、実に、実に面白い。