2014/11/12

第34冊 傾国と呼ばないで 『唐玄宗紀』

唐玄宗紀 小前 亮

「傾国の美女」というが、女ひとりで国が滅びはしない――
 
唐の九代皇帝、玄宗の一代期、なのですが、
中国歴史モノに無条件にアレルギーを感じる方にも、
これはぜひ読んでいただきたい作品です。 


玄宗というと、「皇帝の座にあるうちの前半は
善政を行うも、後半は楊貴妃とイチャイチャして堕落……
おかげで安史の乱が勃発、あわや亡国の危機……」
といったような評価がされがちで、かく言う私もそう思っていました。


が……、この作品は、宦官である「高力士」の視線に
寄り添いながら玄宗皇帝の苦悩やその周囲の権力闘争を
描くことで、玄宗皇帝や楊貴妃への、上記のような紋切り型の
解釈から目を洗ってくれる仕掛けになっています。


世界史最強クラスのバカップル(褒め言葉です) が
好きになること請け合いです。


また、一代期というのは歴史を順に追って行くことで
とかく退屈になりがちですが、 本作は、老境に至った
玄宗と高力士が当時を振り返る節がところどころ挟まれており、
それが箸やすめになるとともに、玄宗の人物像に奥行きを出しており、
非常に面白いです。


この玄宗と高力士のいちゃつくさまも、ある種の趣味を
お持ちの方にはご馳走かもしれません。そういう楽しみ方も
できるのが、本作のフトコロの深いところであります。


余談 本作を読んで……
 
玄宗と楊貴妃の関係を題材にした白居易の『長恨歌』は、
本邦の文学にも大きく影響を与えたと言われており
(『源氏物語』は、『長恨歌』への「返歌」である、という説も
ありますし、あの『ドグラ・マグラ』でもネタにされていたり
しますね)、文学系の学科出身者としては、一般教養として
それなりに知っているつもりだったのですが、 歴史上に
実在した人たちとしてはほぼ知らないに等しかったことが
よくわかりました。 玄宗、楊貴妃、ごめんなさい。

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