2014/10/26

第33冊 サン○ルの二番煎じじゃないんだぜ『選択の科学』

選択の科学 コロンビア大学ビジネススクール特別講義 (文春文庫)

選択の全貌を明らかにすることはできないが、
だからこそ選択には力が、神秘が、そして並はずれた
美しさが備わっているのだ(単行本版p329)
24種類のジャムを試食できるようにした場合と、
6種類のジャムを試食できるようにした場合とを比較すると、
前者の売り上げは後者の10分の1しかなかった……
というような、著者を有名にした実験を皮切りに、
選択というものに実に色々な角度から焦点を当てた本。


「コロンビア大学白熱教室」という番組があったもので、
漠然と、サンデ○さんのやつが受けたから出たドジョウ本
なのかな、と思って何となく避けていたのだけど、
読んでみたら面白い本でした。


不自由でもストレス、自由すぎてもストレス

選択の自由がないことはストレス。
でも、選択の幅がありすぎてもストレス。

本書は最初、動物実験の結果などから、動物園の動物が短命な理由を
選択の自由がないことと喝破。人間についても、あまたの例から、

人々の健康に最も大きな影響を与えた要因は、
人々が実際にもっていた自己決定権の大きさではなく、
その認識にあった(単行本版p35)

フランクル博士の『夜と霧』みたいに、自分の認識の枠組みを
変えて、外的な刺激とそこから起きる自分の反応との間にスキマを作れ、
とはかの有名な『7つの習慣』でも習慣以前の大前提として述べられていましたが、
本書の面白いのは、自己決定権が大きすぎることもまた負担になることを
示したこと。

東ドイツ住民はなぜ昔を懐かしがるのか」といった章に書かれた話や
冒頭のジャムの例は、自由の「功罪」を示しています。

そういえば、『神々の沈黙』でも神の声が聞こえるのは意思決定のための
葛藤がストレスだから、という話がありましたね。

  →参考:第7冊『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ


自己啓発本のパターンは国によって変えるべき?


意思決定の範囲の広さがどれくらいだと心地よく感じるか、は
文化圏等によっても影響を受けるようで、例えば、日本人とアメリカ人とでは
何を自己決定したいか、と聞くと上がってくる項目の数が四倍も違う、という
実験結果が紹介されています。


結婚についても、著者であるシーナ・アイエンガーの両親は結婚当日まで
お互いの顔も知らなかった、家族同士が取り決めた結婚であった、という
例を出しながら、必ずしも個人主義的な結婚ばかりが良い訳ではないことを
示します。

例えば、インドでは恋愛結婚の離婚率は、お見合い結婚の離婚率の10倍と
いう数字になるそうです。
※個人的には、その要因は、恋愛結婚での幸福感は時間とともに下がりやすい、という以外にも、自分で望んで恋愛結婚をした人は、自分が望まぬ方向になってきたからその状態を解消する、という選択を行うだけの決断力がある、ということの影響があるとは思いますが。

アメリカ式の自己啓発本は、多く、おのれの人生のビジョンやミッションを
明らかにせよ、決意せよ、というパターンが多いですが、もしかしたら、あの
「自分で何でも思うように決めろ」という方向は、日本人の多くには合わないの
かもしれません。

決めるのは誰の意志?


やむを得ない選択、周囲に流されての選択でも、
人間の奇妙な脳は、それは自分が望んでした選択だ、
と思うようにアッサリ記憶を加工してみせます。

たとえば、仕事について、本書ではこんな研究結果が披露されます。

過去の優先順位を正確に思いだせなかった人ほど、自分の選んだ仕事に対する満足度が高かったのだ。このような幻想で自分を守ったおかげで、自己矛盾を認識せずに済み、初期の調査時に自分がつけた優先順位に義理立てする必要を感じずに、今この瞬間の優先順位に沿った選択ができたのだ(単行本版p127)
大した機能です。

こんな具合に、「選択」にまつわる研究は、ある意味、人間の弱さや強さ、
賢さや愚かさを浮き彫りにしていきます。本書で紹介されている、
ガン撲滅運動のイエローバンドを用いた実験なんて、かなり「残酷」な
実験なのですが、これはぜひご自分で読んでみてほしいです。

家族知人友人、そして何より自分の選択や行動に、ちょっと寛大になれるかも
しれません。


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