2014/10/09

第27&28冊 中国人の「古代妄想」に触れる 『孔子伝』&『字統』

白川静という学者の名前をご存知の方も
多いかと思います。

甲骨文・金文まで遡っての漢字研究で有名な
碩学。

余談ですが、学生運動華やかりし頃、立命館大学が
全学封鎖となっていた中でも、淡々と研究室で研究を
続けていたそうで……何とも頭が下がります。

新訂 字統

白川静さんの手になる辞書『字統』、私も学生の頃に読みふけって
いましたが(思えば贅沢な時間の使い方でしたねぇ)、
何が面白いって、漢字のルーツが古代呪術であることを
これでもかこれでもかと見せつけ、古代の中国人の世界観を
生き生きとした形で示してくれることです。


表意文字である漢字を使う国に産まれた事を感謝したくなる
面白さです。


言うなれば、「古代妄想」の結晶であります。
妄想という言葉を使っていますが、バカにしているわけではなく、
当時の人々の世界観としては一本筋の通った……というか、
それこそが彼らの「世界」であり、リアルだったわけです。


例えば、就職の「就」の字が、犬を磔にする古代呪術を
示す字である、と。そんな凄まじい字だったんか!と
驚かされます。


犬は呪物としてはかなりメジャーな存在だったと考えられるようで、
前にご紹介した『陋巷に在り』でも、ちょいちょい生け贄として
使われています。

 →参考:第13〜26冊 孔子が戦い、顔回が舞う『陋巷に在り』


余談ながら、私が愛してやまない夢野久作という作家の
エッセイ(夢野久作全集〈11〉 (ちくま文庫) 所収)によると、
近世まで犬を使った呪術というのは本朝にもあったようで、
犬を首だけ出して地面に埋めて、食事をギリギリまで与えず、
その後食べ物を見せてキチ○イのようになったところを
すかさず首を刎ねたものを触媒として使う、という何とも
スサマジイものだったようです。

そんな、漢字から古代中国人の考え方を読み解くという離れ業
をやってのけた白川静さんが酒見賢一さんにインスピレーションを
与えたであろう本が『孔子伝』です。

孔子伝 (中公文庫BIBLIO)

呪術がまだ「力」を持っていたであろう時代に、
孔子はおそらく巫呪を行う一族の一員として産まれた
のではないか……


そんじょそこらの小説はだしの着想から描かれた孔子像は、
十ウン年前にこの本を初めて読んだときまでに私が抱いていた、
何とも説教くさい孔子像を完膚なきまでに吹き飛ばしてくれました。


漢字と古代史の研究から、ひとりの、実際に生きた人間としての
孔子があぶり出されてくる様は、一種の推理小説のような面白さで、
『陋巷に在り』の参考資料の筆頭にあげられていたのも、
よくわかる気がします。

ちなみに、この白川静さんの二冊の本を読んでから、
『身体感覚で『論語』を読みなおす』を読むと、また
一段と面白いです。


 → 参考:第8冊 四十にしても惑いまくり! 
   『身体感覚で『論語』を読みなおす』安田登


孔子とか儒教にアレルギーのある人こそ読んでほしいなあ、と
思います。


余談ながら、孔子の末裔のひとりは日本でラーメン屋を営んで
いるそうなのですが……
http://snn.getnews.jp/archives/423777

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