神に追われて: 谷川 健一
怖い本です。
民俗学の権威がフィールドワークの中で、
実際に出会った神がかりの人の半生を
まとめた本。
つまり、実話から成っているわけです。
絶版ですが、プレミアがついて取引されるくらい、
ソチラの世界に興味のある方は読みたがる本なのです。
谷川健一の全集にも収められているので、
お金かかっても良ければ、読むこと自体は
難しくありません。
普通に暮らしている人間からすると、
神がかりというと、
「神秘体験とか、超能力とかに
事欠かなくなるってこと?
刺激的な毎日を過ごせそうで、ちょっと
羨ましいかも」
みたいなイメージがある方もいらっしゃるかと
思いますが、この本で登場する人々の生活は、
もはや「刺激的」なんてものじゃありません。
本書に登場する神に憑依された人間(カンカカリヤ)の、
「普通の幸せ」は、彼らの頭の中から呼びかける
神の声によって、ズタズタにされていきます。
神の声、といえば、これですね。
→参考:第7冊 神は、まだそこにいるのです
『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ
神に仕える役目を一方的に負わされ、自殺すると言えば
娘の命をとると脅され、神の声に従っての奇行から
結婚生活も破綻し、しぶしぶその声に従うカンカカリヤ、
「根間カナ」の姿を知り、それでも神がかりになりたい、
というのは相当な覚悟がいるでしょう。
途中、他の霊能者との霊能合戦まで勃発したり、
本当に大変です。ちなみに、霊能合戦は、前に
以下の本で見たような戦いと、やっぱり似ていたりします。
→参考:第38&39冊 今も昔も超能力戦争だ!
『洗脳原論』&『性と呪殺の密教』
その後、根間カナが、普通の医学や他の霊能者の手にあまる
相談事を引き受けるなど、カンカカリヤとして暮らし、様々な
トラブルを引き受けている様なども描かれます。
神の声に従ったおかげで、死期の近づいていた母が持ち直したり、
思春期の大半を全身をおそう痛みとの闘いで過ごした少女が
根間カナとの出会いでようやくその苦しみから解放されるなど、
いくらかの救いはありますが、何とも、壮絶。
この、個人の願う幸福や意思というものを、自分の奥底から
響く声がズタズタに破壊していく、という怖さは、どこかで
知っているな、と思ったのですが、ハタと思いだしたのが、
『ドグラ・マグラ』の中に登場する「心理遺伝論」であります。
こちらは電子書籍で読めますし、ある意味で推理小説でも
ありますので、あまり詳しく触れるのも野暮なので、未読の
方はぜひ、ご一読を。
ドグラ・マグラ 電子書籍: 夢野 久作
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